子どもの成長障害

こどもが大人と大きく異なることの1つに「成長する」ということがあげられます。
それがうまくいかない場合、何らかの生活習慣の問題や大きな病気が隠れていることがあります。
そのため成長の問題を放置すると、病気の原因によっては、生命に関わったり、後遺症が残ったり、健康上の問題が残ったり、背が低いことによる心理的問題など、その後の生活に大きな問題が残ることもあります。

どういった時に受診すればいいの?

まずは下図のように成長曲線(発育曲線)をつけてみましょう。成長曲線は、母子手帳にもありますし、クリニックにもありますので、気軽にお申しつけ下さい。
<図1>成長曲線でみる受診が必要な成長パターン
そして下記のような場合は、医療機関に相談する必要があります。
1.低身長のあるとき
低身長とは、成長曲線(発育曲線)のいちばん下の線(3パーセンタイル、あるいは-2SD)より身長が小さい場合をいいます。
3パーセンタイルあるいは-2SDとは、統計学的に「100人のお子さんがいた場合、前から3人まで(3パーセンタイル)、あるいは2.3人まで(-2SD)までを『低身長』と決めよう。」ということです。
こう決めると100人のお子さんがいた場合、うち2~3人は理論的には『低身長』ということなります。
なぜ『 』をつけたかというと、当然ながらこうしたお子さんのほとんどが健康で、病気などはほとんどない、といえるからです。

「低身長のあるとき」というと、少し変な表現だと思われるかもしれません。
これは、「うちの子は、他の子より小さいのではないか」、と心配になった場合でも、ほとんどのお子さんは正常範囲のことが多いためです。
現代社会のように背が高い人の方がカッコイイと思われたりする時代は、真ん中より少し小さいだけでも気にしたりする人もいるくらいです。

こういうときは、実際にお子さんの身体計測の記録から成長曲線を作ってみるのがいちばんです。
小さいように思えても、成長曲線のいちばん下の線(3パーセンタイル、あるいは-2SD)より大きい場合は、低身長とはいいません。

成長曲線の一番下の線(3パーセンタイル、あるいは-2SD)よりも身長が下回るときは、一度受診していいと思われます。

ただ先ほども書いたように、心配しないでほしいのは、3パーセンタイルあるいは、-2SDより小さい場合でも、極端に下回っていない限り、線に沿って伸びている場合は、病気の可能性は少ないということは強調しておきたいです。
こういう場合、何か検査をする場合でも、「病気を見つけよう」というより、「病気が何もないのを確認しよう」という意味が強くなります。
2.低身長ではないが、ある時期より急に背が伸びなくなったとき
低身長ではないが、ある時期より急に背が伸びなくなり、成長曲線の線を横切って下がっていくようなときは、その時期より何らかの病気を発症している可能性が高いため、たとえ身長が正常範囲であっても受診することをお勧めします。

後述するように、子どもに何らかの長びく病気(慢性疾患)が起こったときは、はたから見ていて元気そうであっても、気づかないうちに背が伸びていないことがあります。
逆に背が伸びない原因を調べるうちに、慢性疾患が見つかることがあります。
3.年齢不相応に急速に身長が伸びるとき
お子さんの発育の原則は、「成長曲線に沿って育つ」ということです。
これが、ある時期より急に背が伸びだし、成長曲線から外れている場合は不自然です。

ふつうは急速に伸びる時期ではないときに、不自然に急速に伸びるときは、成長ホルモンが過剰に分泌される下垂体腺腫という病気が隠れていたり、あるいは汗をかきやすい、動悸がする、体重が減るなどの症状が伴っている場合は、甲状腺機能亢進症が隠れていたり、二次性徴(女児の場合、胸が大きくなる、陰毛が生える、月経が起こる、男児では、睾丸が大きくなる、陰毛が生える、声変わりが起こる)などが伴われる場合、思春期早発症といった病気があったりします。

思春期早発症では、急速に背が伸びるのですが、同時にあまりにも早く大人の体になってしまうので、そこで身長の伸びが止まってしまい、最終的には身長が低いままとなってしまいます。
また年齢不相応に急速に大人の体になることによる心理的な影響などの問題も大きくなります。
そして、とくに男の子の場合、脳腫瘍などの原因が隠れていることがあります。
4.ものすごく心配でどうしたらよいか分からないとき
自分であれこれ調べてみても、やっぱり心配でしようがない、という場合も一度相談された方がよいと思います。

低身長の原因にはどんなものがあるの?

低身長をきたす疾患
  1. 家族性低身長
    家族の多くが背が低く、とくに病気が見つからないもの。低身長の原因としてもっとも多いです。
  2. 体質性低身長
    SGA性低身長:生まれたときより体格が小さく、おいつかない。
    体質性成長・思春期遅延:同年齢の他のお子さんより体の成熟が遅いが、最終的には正常範囲においつく。
  3. 生まれつきの病気による低身長
    ターナー症候群、軟骨無形成症、ラッセル・シルバー症候群
    ほか多数あります。
  4. 内分泌性低身長
    成長ホルモン分泌不全性低身長症、甲状腺機能低下症、副腎皮質過形成症ほか
  5. 長びく病気による低身長
    慢性腎不全、アトピー性皮膚炎(厳しすぎる食事制限など)、気管支喘息(重症で治療がなかなか有効とならない場合)、心疾患(心不全をきたしているなど)、消化器疾患(栄養が長期にわたり吸収されない状態が続く、下痢が続くなど)
    愛情遮断症候群・被虐待児症候群ほか
まず、はじめに強調しておきたいことは、背が低いからといって、必ず病気というわけではない、ということです。
低身長は、母集団の-2SD(Standard Deviation 標準偏差)として定義されており、分かりやすくいうと、統計的に100人のお子さんがいた場合、前からおよそ2~3人までを低身長とする、ということです。
この中で、本当に病気がみつかることは、さらに少なく、たとえば、成長ホルモン分泌不全症は4000人に1人なので、低身長で受診されたお子さんを80人調べてようやく1人見つかる程度です。
多くがいわゆる正常変異(正常の中での個人差程度のもの)であり、相談される方で最も多いものは、家族性低身長症と体質性成長思春期遅延であります。

また、治療が可能な低身長をきたす疾患のうち、一般診療所で対応ができるものは、脳腫瘍などの病気によらない成長ホルモン分泌不全性低身長症、SGA性低身長症であり、それ以外の病気が原因の場合は、内分泌専門医のいる大学病院や総合病院に紹介するようにしています。

家族性低身長症と体質性低身長症は、どちらも正常変異(正常範囲内でのばらつき)と考えられるものです。
1.家族性低身長

(1)家族性低身長症

家族みんなの体格が小さく、遺伝的なもので、特に病気とは考えられないものをいいます。
低身長の中で原因としてもっとも多いものです。

成長に役割を果たす遺伝子は何百とあるといわれていますが、1つ壊れただけで大きな影響がでる遺伝子に異常はなく、小さいものから中くらいの影響がある遺伝子の作用が積み重なっていると考えられています。

2歳ころから、同年齢のほかのお子さんに比べて小さいと気づかれますが、身長の伸び自体は成長曲線に沿って平行に伸びます。
骨の成熟に関しても年齢相当のため、後述する体質性成長思春期遅延のお子さんとは違い、後で周囲の人を追い越して成長する可能性も少ないです。
両親もお子さんと同様に小さく、お子さんの最終身長は、両親の平均身長から予想される範囲内に治まります。
検査をする必要はなく、したとしても異常はありません。

ただし、いくら御両親の背が低いと言っても、-2.5~-3SDといった極端に小さい身長であったり、成長曲線からどんどんはずれていく場合は、家族性低身長というよりも他の疾患の可能性がないか確認した方がよいと思います。

(2)特発性低身長症

特発性低身長症とは、低身長に対し、いろいろな問診、診察、検査を行ってもとくに異常が見つからなかった場合を言います。
これを正常というのか、異常がみつからなかっただけなのか、どこまで検査をすればよいのか、については一致した意見はまだありません。
多くの場合、家族も同様に背が低いです。
この場合、最終身長が成人の正常身長よりも低くなってしまう可能性があります。

あまりに背が低くなる場合、心理的、社会的、経済的にお子さんに悪い影響が出てくる可能性があり、病気でなくても治療の対象にすべきとの意見もありますが、現在、特発性低身長症に対する治療は、健康保険上は認められておりません。
2.体質性低身長
我々ヒトの成長には、栄養や、成長ホルモン、性ホルモンといった様々な因子が作用しています。
0~3歳頃までは、胎児期の急速な成長状態の影響がそのまま続き、その後思春期までは成長ホルモンが重要な役割を果たします。
思春期になると性ホルモンにより急速に身長が伸びるとともに、体が成熟して大人の体になり、最終身長に到達します。
体質性低身長とは、病気ではなく、これら3つの時期のうち、各時期に発育に必要な要素が他の人より少ないために発育がやや悪い人のことをいいます。
これらには、SGA性低身長や体質性成長思春期遅延などがあります。
このうちSGA性低身長症については、最近は世界的にも治療した方がよいという方向になってきています。

(1)SGA性低身長

SGAとはSmall for Gestational Ageの略で、「在胎週数に比べて小さい」という意味です。
同じ週数で生まれた赤ちゃんの中で、身長・体重が10パーセンタイル未満、例えば、初めての男のお子さんが40週0日で生まれた場合、身長で46.7 cm未満、体重で2650 g未満であれば、SGAとなります。

SGAの原因は色々とあって、お子さん自身に何か病気があった場合(胎児因子)、おなかの中にいるときに胎盤がうまく働かなかったりへその緒がねじれていたりして血流が悪かったりといった理由でお母さんからうまく栄養を摂ることができなかった場合(胎盤・臍帯因子)、また妊娠中にお母さんに何か病気であった場合(母体因子)など、おなかの中でうまく育つことができなかった状態と考えられます。
SGAのうち、胎児が原因で起こる場合は、ほかの病気の一症状のことがあります(ラッセル-シルバー症候群など)。

ただ、心配しないでほしいのは、SGAで生まれたお子さんのほとんど(約80~90%)は、その後2歳までに、正常範囲に急速に追いつきます。

しかし、2歳までに追いつくことができなかったお子さんでは、その後追いつく可能性が少ないことがわかっています(SGA性低身長症)。
なぜ追いつくことができないのかについては現時点ではまだ原因がわかっていませんが、こうしたお子さんの成長ホルモン値は正常ですが、成長ホルモンに刺激されて出てくるインスリン様成長因子1型(IGF-1)は低値のことが多く、成長ホルモン抵抗性が1つの要因といえるかもしれません。

こうしたお子さんでは最終的な身長が小さくなるのみならず、成人してから肥満、高血圧、2型糖尿病などのいわゆる生活習慣病が、そうでないお子さんよりも多くなるといわれています。

海外のデータでは、SGA性低身長症のお子さんに対して、成長ホルモン治療を少なくとも7年ほど続ければ、何もしないときより約6 cm程度身長を増やすことができると報告されており、最終的な身長が改善します。
さらに生活習慣病をきたしやすい体質も改善するといわれています。

我が国でも、SGA性低身長症に対する成長ホルモン治療が健康保険で行うことが認められています。
成長ホルモン投与量は、成長ホルモン分泌不全症における投与量よりも1.5~2.5倍多く必要になることが多いです。

(2)体質性成長思春期遅滞

体質性成長思春期遅滞も正常内のばらつきの一つと考えられています。
いわゆる「おくて」と言われているものです。

この場合、お子さんのみならず、御両親も「子どもの頃はほかの子どもと比べて背が低く、二次性徴も遅かったが、最終的には周囲に追いついた」ということが多いです。
お子さんは、幼稚園から小学校の頃まで、病的ではないものの背の順は前の方であり、周囲の友達が二次性徴を迎え、どんどん急速に背が伸びるころになっても、なかなか二次性徴が起こらず、周囲と身長がどんどん離されるころに、心配になって受診される方が多いです。

骨年齢を調べると、同年齢のお子さんと比べてかなり遅れています(幼い)。
思春期に入ることも遅いです。成長スパートの始まりも遅くなります。
男女どちらでも起こりますが、男の子の方が、背が低いことを気にすることが多いため、早く気付かれます。
しかし、同年代のお子さんと比べて遅いものの、最終的には正常範囲に治まることが多いです(家族性低身長症もある場合は小さくなることもあります)。
お子さんの背が伸びず、思春期が遅かったとしても、御両親が子どものころ同じような育ち方をしていて、嗅覚が正常な場合(嗅覚異常がある場合Kallman症候群という病気のことがあります)は、体質性成長思春期遅滞である可能性が高いでしょう。

ときに長引く病気のために、成長・思春期が遅れることがありますし(甲状腺機能低下症など)、また、あまりに遅い(女の子で13歳、男の子で14歳まで思春期が始まらない)場合は、中枢性性腺機能低下症という病気が隠れていないか検査する必要があります。
特に女の子の場合、思春期がはっきりと遅いときは、しっかりと原因を調べた方がよいと思います。
3.生まれつきの病気による低身長
※便宜上、「病気」ということばを用いましたが、ターナー症候群などは、病気というより1つの体質と考えよう、という考え方になってきています。

ターナー症候群、ダウン症候群、プラダー・ウィリー症候群、ヌーナン症候群、軟骨無形成症、ラッセル・シルバー症候群といった病気のお子さんは、背が低くなります。
その他にも生まれつきの病気で低身長となる病気はたくさんあります。

以下、一部疾患について解説しますが、どの場合も低身長のみならず、起こりうる様々な健康上の問題につき見ていかなければなりません。
そのため、これらのお子さんは内分泌専門医を中心にさまざまな専門科がチームを組む必要があるため大学病院などの高次の医療機関で治療を受けた方がよいです。

(1)ターナー症候群

ターナー症候群は、女性にのみ起こり、だいたい2500人に1人の確率でみられ、成長ホルモン分泌不全症(4000人に1人)よりも多いくらいです。
女性の2本あるX性染色体(男性はX染色体1つとY染色体1つずつ、女性はX染色体が2つあります)のうち、1つが失われていたり、異常があったりすることが原因です。
低身長症は、ターナー症候群で最も多く見られる症状で、人によっては低身長しか症状がないこともあります。
低身長症の原因は、失われたX染色体の中の低身長ホメオボックスX遺伝子(SHOX遺伝子)がなくなっていることが主な原因と考えられています。

ターナー症候群のお子さんは、生まれた時の身体の大きさは正常で、小児期から身長が伸びなくなり、成長曲線からはずれてきます。
また、卵巣がうまく働かないため、思春期が来ず、乳房の発育や月経が見られません(10%のお子さんは短期間ではありますが、思春期がきます。わずかではありますが妊娠の報告もあります)。
ほかには、心臓や腎臓他の多くの臓器に合併症が見られることもあり、定期的な確認が必要です。

ターナー症候群では、成長ホルモン治療や女性ホルモン補充療法を行い、また合併症についても見ていかなければなりません。
欧米では、オキサンドロロンという蛋白同化ステロイド薬が低身長の改善に有効であり使用されていますが、日本では発売されておりません。

(2)プラダー-ウィリー症候群

プラダー-ウイリー症候群は、2つある第15番染色体の一部で、父由来の染色体の特定の領域が欠けていたり、働きを失っていたりすることが原因で起こります。
赤ちゃんの時は、身体に力が入らずミルクも飲んでくれないため体重がまったく増えないことが心配となります。背も低く、手足も小さいのが特徴的です。
その後、病的に食欲が亢進し、病的肥満をきたすようになり、コントロールが大変になります。
他には発達の遅れや知能障害などの症状も見られます。

プラダー-ウィリー症候群では、成長ホルモン治療を早期に開始(生後4か月~2歳)に開始すると、最終身長が増加し、発達の遅れや肥満も改善し、病的肥満の程度も減少すると言われています。
成長ホルモン治療開始後1か月で上気道閉塞による突然死の確率が増えるという報告もあるため、治療開始前後やその後も定期的に睡眠検査や耳鼻咽喉科の診察を受ける必要があります。

(3)ラッセル-シルバー症候群

ラッセル-シルバー症候群は、低身長、逆三角形の顔(おでこが出ており、上あごが小さく、下あごが尖っている)、下向きの口角(「むっ」と口をつむった状態)、小指が曲がっている、といった症状があります。
生まれた時から体が小さく、生まれた後も身長がなかなか追いつきません。
小さいのに母乳・ミルクをなかなか飲んでくれないので、御両親は心配されます。
発達が少し遅れることもあります。

原因は、第11番染色体のうち父由来染色体の一部の異常(インプリンティング異常)が見つかることが60%、第7番染色体の一部が2つとも母親由来で父親成分がない(片親性ダイソミーといいます)場合が10%、後の30%は遺伝的原因が見つかりません。

ラッセル-シルバー症候群の低身長については、SGA性低身長として成長ホルモン治療が可能な場合があります。

(4)ヌーナン症候群

ヌーナン症候群の症状は、ターナー症候群によく似ていますが、男女どちらでも起こります。
欧米では、1000~2500例に1例の頻度といわれています。

原因は、細胞内情報伝達系であるRas/MAPKシグナル系の異常と言われており、その中でもPTPN11遺伝子の病的変異が見つかる場合が50%、他の遺伝子異常(SOS1、RAF1、KRAS、SHOC2、BRAF、NRAS、RIT1、CBL、KATB6、LZTR1、SOS2)も数多く報告されていますが数は少なく、異常が見つからない場合も40%程度あり、未知の遺伝子が想定されています。

顔の小奇形、低身長、肺動脈狭窄や肥大型心筋症などの心疾患に加え、頸部・胸郭の異常、停留精巣、知的障害、出血傾向、リンパ浮腫などの症状があります。

ヌーナン症候群に関連する低身長の治療として成長ホルモン治療が認められるようになりました。

(5)軟骨無形成症

軟骨無形成症は、体よりも四肢が短くなる低身長症の代表的な病気です。
私が子どものころ大好きだった映画「スターウォーズ」に出てくる有名なロボットであるR2-D2の中に入っていた俳優のケニー・ベイカーさん(すでに亡くなられておられますが・・)がこの疾患でした。

原因は、ほぼ全例で線維芽細胞増殖因子受容体3型(FGFR3)遺伝子の1138番目の変異によりグリシンというアミノ酸がアルギニンというアミノ酸に変化してしまったため、受容体の機能が上がってしまったままの状態になることにより起こります(スイッチが入りっぱなしというとわかりやすいでしょうか)。
2万人に1人の割合で見られ、優性遺伝しますが、80%のお子さんが親御さんからの遺伝ではなく、病気でない御両親からの新しい突然変異により起こります。

この病気は、成長軟骨と呼ばれる骨を作る土台となる部分が障害されるため、軟骨内骨化が起こる顔面正中部が小さくなってしまったり、手足などの管状の骨が短くなってしまいます。

症状は、極端な低身長症(成人男性で130cm、成人女性で120cm程度)、四肢が短いのが特徴的です。
水頭症などさまざまな合併症をきたす可能性があるため、定期的に評価する必要があり、高次医療機関で診てもらう方がよいでしょう。
4.内分泌性低身長
内分泌系は、体の代謝(物質の分解、合成)が極端にかたよらないよう、常に一定の状態を維持できるように、体内の状態をモニターして、ホルモンという物質を出して調節するはたらきがあります。
ホルモンを産生する臓器は非常にたくさんありますが、脳下垂体、甲状腺、副甲状腺、副腎、性腺、膵臓などが古典的なものです。
成長ホルモン分泌不全症、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能低下症など、ホルモン分泌臓器の病気は、どの病気も低身長をきたす可能性があります。
内分泌系の病気でたとえば副腎皮質機能低下症などは、ちょっとした風邪をひいただけで命に危険が及ぶことがあるため、内分泌専門医がいて24時間体制で診療してくれる大きな病院でみてもらった方がよいと思います。

(1)成長ホルモン欠損症

成長ホルモンは出生後の発育に必要不可欠であり、成長ホルモンが欠乏しているお子さんは、発育が止まってしまいます。
成長ホルモン欠損症の原因は、生まれつきのものもあれば、生まれてから起こることもあります。また、赤ちゃんのときから症状が出ることがあれば、もっと大きくなってから症状が出る場合もあります。

生まれつきの欠損症の場合、成長ホルモンが作られ、分泌される場所である脳の視床下部や下垂体が生まれつき異常があったり、成長ホルモンが分泌され働く情報伝達経路のどこかに異常があることが原因となります。
前者の場合、成長ホルモン以外の下垂体ホルモンである甲状腺刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモンなどが欠損していることもあります(複合下垂体ホルモン欠損症)。
後者の場合、成長ホルモンに関連する種々の遺伝子の異常が報告されていますが、多くはなく、明らかな遺伝子の異常などは見つからないことも多いです(特発性といいます)。

また、成長ホルモン欠損症は、分娩外傷(生まれるときに難産のため、脳梗塞による脳下垂体の障害)、頭部外傷、脳腫瘍、白血病の治療などで脳に対する放射線照射などの原因でも起こります。
この場合、成長ホルモン分泌不全症だけが起こることはほとんどなく、他のホルモン欠損も同時に起こることが多いです。

①新生児期発症の成長ホルモン欠損症

成長ホルモン欠損症が生まれてすぐに発症する場合、成長ホルモンが単独に欠損していることは少なく、他の下垂体ホルモンも欠損していることが多いです。
顔面の正中部(脳、視神経、目、鼻、口、上あご、のど)に色々な形態異常が見られることもあります。
この場合、低血糖症をきたしたり、黄疸が長引いたりすることもあります。
性腺刺激ホルモンが少ないため、男の子の場合、おちんちんが小さかったり(小陰茎)、精巣が陰嚢内に下降しなかったりすることもあります(停留精巣)。
副腎皮質刺激ホルモンが少ないと、低血糖が悪化したり、低血圧、低体温をきたしたりします。
甲状腺刺激ホルモンの作用が不足すると、低体温、身長・体重が増えない、ミルクの飲みが悪い、黄疸が長引くといった症状が見られます。
新生児期に発症した成長ホルモン欠損症は、多くは生まれて早期に発見されて治療されていることが多く、当院を受診されることはまれだと思います。

②小児期発症の成長ホルモン欠損症

成長ホルモン欠損症が小児期に発症する場合、新生児期には症状がないことがわかっています。
はっきりとした原因遺伝子がみつかることはまれで、ほとんど原因は不明なことが多いです。
2~3歳頃までに成長障害を起こすことが多く、典型例では、背が低いわりに小太りで、筋肉が少なく、声が高く、歯の萌出が遅れますし、骨年齢も実際の年齢より遅れています。
原因不明な成長ホルモン欠損症(特発性)では思春期頃に成長ホルモン分泌能を調べると正常なことが多いです。

採血検査では、ソマトメジンC(IGF-1)が低値(正常群と欠損症群で値が重なり合う部分があるので、これだけでは判定できません)で、日本では2種類の成長ホルモン分泌刺激試験で成長ホルモンの頂値(最も高い値)が<6 ng/mLの場合(GHRP-2という試薬を用いた場合、<16 ng/mL)に成長ホルモン欠損症と診断されます。
成長ホルモン欠損症と診断された場合、治療前に、脳の器質性疾患(脳腫瘍など)がないことを確認するために、頭部のMRI検査で視床下部・下垂体領域を中心に検査しておくことが勧められます。
この検査は1台数億円することもある高額な装置のため、大きな病院に検査を依頼して行ってもらっています。

治療は成長ホルモンを週6~7日、自己注射で行います。
健康保険の自己負担分でも負担できないくらい非常に高価な薬のため、自治体の公費助成や、小児慢性特定疾病事業として国からの治療費の助成が利用できます(治療対象となるための基準を満たすことが必要です)。

器質性疾患のない成長ホルモン欠損症は、診療所で治療できる疾患ですが、4000人に1人くらいなので、低身長症のお子さんを80人調べてようやく1人見つかる程度ですので、さほど多くはありません。

(2)甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症でも成長が障害され、低身長の原因となります。
原因は、先天性のことも、後天性のこともあり、また、視床下部や下垂体の病気により甲状腺刺激ホルモンが産生されなくなる場合(中枢性)や原発性自体に異常がある(原発性)があります。
先天性の甲状腺機能低下症の大部分は、甲状腺自体に異常があり、治療開始が遅れると発育・発達に決定的な影響が出る事がありますが、早期発見・早期治療するために、現在は新生児マススクリーニング(生後数日でかかとから採血し、1か月健診で結果が返ってきているのを覚えておられるでしょう)で発見されており、低身長でみつかるものはまれだと思います。

後天性の甲状腺機能低下症は、自己免疫性甲状腺炎が原因のことが多いです。
自己免疫性甲状腺炎をきたしやすい病気があり、その場合、定期的に甲状腺機能のチェックが必要です(ターナー症候群、ダウン症候群ほか)。
中枢性はまれです。
ときに甲状腺疾患以外の疾患が軽度の甲状腺機能低下症の原因となることもあります。

自己免疫性甲状腺炎は、年長児や思春期頃に多く見られます。
今まで正常に増えていた身長・体重が急に増えなくなる、甲状腺が大きい、軽度の肥満、といった症状があります。
ほかには、皮膚の乾燥、便秘、寒さに弱いといった症状や、月経がはじまっている女性では月経が止まったり、母乳が分泌されることもありますが、ほとんど見られません。
先天性の甲状腺機能低下症は放置すると知能障害をきたしますが、後天性の場合、学校の成績が低下したりすることは普通ありません。
骨年齢は遅れていることが多いです。

診断は、自己免疫性甲状腺炎の場合、採血検査でサイロキシン(T4)あるいは遊離サイロキシン(FT4)が低値であること(正常範囲内で低値のこともあります)と、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高いことと、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体や抗サイログロブリン抗体などの甲状腺自己抗体が陽性であることで確定します。

治療は、甲状腺ホルモン(L-サイロキシン)の補充療法で、症状の明らかな改善が認められます。
5.長びく病気による低身長
親にかわいがられていない子どもや虐待されている子ども、アトピー性皮膚炎で過度に食事制限をした場合、重度の喘息で治療が有効でない場合、心臓の病気で心不全がある場合、慢性腎不全、腸の病気で長期間食べ物がうまく摂れないなど、「長引く病気」は全て低身長の原因となりえます。

病気自体でも発育に影響しますし、ステロイドの長期投与など、治療薬の影響で低身長を来たすこともあります。

逆に非常に元気なのに、背が伸びないということで調べたら、こうした病気が見つかる、ということもあります。

発育外来では何をしているの?

低身長を訴えて来院された場合、詳しい問診と診察を行い、必要に応じ、採血検査や手の骨のレントゲン検査などで、発育状態をチェックするとともに、何か病気が隠れていないかを調べます。

さらに、詳しい検査が必要と判断された場合、必要に応じ、染色体検査や内分泌負荷試験等の検査を行います。また、一般のクリニックではできない遺伝子検査や脳のMRI検査などの検査をする必要であると判断された場合は、専門の医療機関と連携して検査をしてもらうこともあります。

低身長症の治療はどうするの?

何か原因となる病気が明らかになった場合は、その病気に応じた治療を行うことで、身長の伸びが回復することもあります。

成長ホルモン治療が可能なのは、成長ホルモン分泌不全性低身長症や、SGA性低身長症、ターナー症候群、ヌーナン症候群、慢性腎不全、軟骨無形成症、などの病気ですが、ただ成長ホルモンを投与すればよいのではなく、それぞれの病気に応じた専門的な健康管理が必要となります。

器質性疾患のない成長ホルモン分泌不全性低身長症、SGA性低身長症、特発性中枢性思春期早発症などは当院でも対応が可能です。それ以外の疾患は内分泌専門医がいる高次医療機関に紹介するようにしています。