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01.B型肝炎
B型肝炎は、B型肝炎ウイルスの感染によって起こります。
成人の場合、急性症状をきたした後(B型急性肝炎)、多くは治癒しますが、一部は劇症肝炎となって生命の危険が生じたり、また一部(2%程度)が持続感染状態となります(慢性キャリア)。

キャリア化した場合、その患者さんの4人に1人は、その後慢性肝炎・肝硬変、肝細胞癌などの重篤な合併症をきたします。
小児の場合、とくに乳幼児期に感染するとほとんど急性肝炎症状が出ないのですが、成人と異なり、新生児で100%、乳児では90%、幼児では30%と、多くの児が慢性キャリアとなってしまいます。

B型肝炎ウイルスは、感染患者の血液中に高濃度に含まれますし、唾液・汗・尿・精液・膣液などの分泌液にも中等度の量が含まれています。
そのため、主に血液を介して感染しますが、動物実験では唾液・汗・尿からも感染することも証明されています。
もっとも問題になるのは、お母さんがB型肝炎に感染している場合です(母子感染)。
この場合、出産時にほとんどの赤ちゃんに感染してしまい、しかもそのほとんどが慢性キャリアになってしまうことがわかっています。
そのため、日本では1986年より、お母さんが慢性キャリアの場合、全員に出産時に予防処置(HBグロブリンの投与や、HBワクチンの接種)を行うようになり、ほとんどの感染が予防できるようになりました。

また、過去には、予防接種の集団接種(インフルエンザやBCG接種の前のツベルクリン反応検査など)で、注射針・注射シリンジの再利用による感染や、輸血や血液製剤などからの感染が大問題となりました(現在では、ほとんどまったくみられなくなっています)。
これ以外にも、思春期以降は性交渉で感染したり、相撲・レスリング・アメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツを介しての感染、乳幼児では、母親以外の同居家族(父など)の慢性キャリアからの感染や、保育園での慢性キャリアの児からの噛みつきによる感染、あるいはどこから感染したのか感染原因が不明なことも多い、といったことがわかってきました。
つまり、母児感染を防いだだけでは、B型肝炎の広がりを十分に止められないのです。

慢性キャリアや慢性肝炎になってしまった場合、インターフェロン療法や抗ウイルス薬が著効する例もありますが、全例ではなく、一生病気に苦しむことも多いのです。
そのため、かかる前に予防することが重要となります。
世界的にも多くの国が、母子感染などのハイリスク患者のみならず、まったくリスクのない人であっても全員に接種するようになっています(ユニバーサル接種)。

B型肝炎は新生児からでも接種が可能なワクチンですが、何歳であっても接種することができます。
医療機関に就職される方は、入職時に接種することも多いです。
初回、1か月後、5か月後の計3回接種します。
接種しても抗体の獲得が十分でないこともあり、さらに追加接種が必要な場合もあります。
02.ロタウィルス
ロタウイルス腸炎を起こすロタウイルスは、電子顕微鏡で見ると歯車(ローター)のような形をしていることから、ロタウイルスと名付けられました。
毎年冬から春先にかけて流行し、ほとんど全員が一生に1回はかかります。
何度もかかることがありますが、繰り返すたびに症状は軽くなっていくといわれています。

患者の便から感染し、ほんのわずかの量でも感染する力があり、通常の消毒では死なず、環境中で長期間生存することから、他人への感染性が強く、ロタウイルス腸炎は流行するとなかなか止められません。

ロタウイルス腸炎の症状は、発熱、嘔吐、下痢などで、他のウイルス性腸炎と比べて、発熱や、嘔吐や下痢がしつこく続くことも多いです。下痢は白っぽい水様便や泥状便で、ときに酸っぱい臭いがあります。
嘔吐・下痢がひどい場合は、脱水となり、点滴や入院が必要となることも他のウイルス性腸炎より多いです。
また、ロタウイルス感染症は、インフルエンザ脳症、突発性発疹(ヘルペスウイルス6型)ウイルスによる脳症に次いで、脳炎・脳症の原因として3番目に多い病原体です。

ロタウイルス腸炎の重症化を防ぐために、ロタウイルスワクチン接種をすることをWHO(世界保健機関)などは推奨しています。
主要な流行株が1種類含まれる1価ワクチンと、5種類含まれる5価ワクチンがあります。
重症化を防ぐ効果はどちらも同程度です。
ロタウイルスはおよそ5種類のうち、どれか1種類が毎年流行していますが、どれか1種類のロタウイルスに感染すると他の種類のロタウイルスに対する抵抗性もある程度できます。
それを利用しているのが1価ワクチンです。
一方5種類全部入っているのが5価ワクチンです。
1価ワクチンは2回接種で、24週0日までに、5価ワクチンは3回接種で32週0日までに接種を終える必要があります。
令和2年10月より定期接種の対象となり、令和2年8月1日以降に生まれたお子さんは公費接種が可能です。

過去に発売されたロタウイルスワクチンで、腸重積症という合併症が多く、1年で発売中止になったことがありました。
現在のワクチンの腸重積症の発症率は自然発生率と変わらないので、ほとんど問題がないと考えます。
しかし念のため、内服後は腸重積症の発症に注意してください。
腸重積症は突然不機嫌になったり、急に泣き出したりを数分から数十分おきに繰り返したり、真っ赤な血便や嘔吐をするといった症状があります。
生命の危険がある合併症ですが、早期に発見できれば高圧浣腸などの内科的治療を行うことができ、手術による治療を回避できる可能性があります。

このため、ロタウイルスワクチンは、腸重積症の自然発生が起こりにくい14週6日までに接種することが推奨されています。
ワクチンを接種せず、自然にロタウイルス感染症にかかった場合、腸重積症の発症率はワクチンの100倍高くなることが分かっています。

ロタウイルスワクチンは接種できる期間が短いため、開始が遅くならないように注意してください。
接種対象期間からはずれると自費であっても接種できません。
03.ヘモフィルス・インフルエンザ菌b型(ヒブ)
インフルエンザ菌は、いわゆるインフルエンザウイルスとはまったく異なる細菌です。
ヒトの鼻やのどに普通にいるありふれた菌で、健康な子どもからは60~90%の割合で検出されます。
風邪をひいた後の中耳炎や副鼻腔炎の原因となります。
いくつか種類があり、菌に多糖体の被膜があるものと、ないものの2つに分けられます。
被膜があるものは、さらにa~fの6つの型に分けられます。
この中で髄膜炎などの重症感染症を起こすのは圧倒的にb型が多く、その検出率は2~5%程度といわれており、20人~50人に1人はb型インフルエンザ菌の保菌者ということになります。
b型インフルエンザ菌は、その学名であるHemophilus influenzae type bの頭文字からH、i、bをとってHib(ヒブ)と呼ばれます。

ヒブ菌は、ヒトの組織や血液から、脳(髄膜)、肺、心、関節、皮膚、粘膜などの様々な部位に侵入し、髄膜炎、肺炎、心外膜炎、化膿性関節炎、蜂窩織炎、急性喉頭蓋炎などの重症感染症を起こします。
どれも重症で生命に関わることがあります。
この中で最も多いのが髄膜炎で、重症感染症のうち半分を占めます。
日本では、毎年約600人のお子さんがb型インフルエンザ菌による髄膜炎にかかっていました。
髄膜炎になると、そのうち約5%が死亡し、約25%に後遺症(難聴、神経学的後遺症)が残ります。
早期診断が難しく、また抗生剤に対する耐性菌の問題もあるため、治療が難しくなっているのが現状です。

b型以外の型による重症感染症もあるのですが、非常に少なく、ほとんどがb型によるものといっていいと思います。
ワクチン導入前の米国では、ヒブ菌による重症感染症が、5歳未満の乳幼児10万人当たり、1年間に64~129例みられたのに対し、b型以外の菌では0.7例と極端に少なかった、というデータがあります。

米国では1988年に、ヒブ菌に対するワクチン(ヒブワクチン)が開始されました。
結果、ヒブ菌による髄膜炎を含めた重症感染症は、現在ではすでに過去の病気になってしまいました。
このことからもわかるとおり、ヒブ菌による重症感染症の予防には、予防接種が非常に有効であることがわかりました。
ヒブワクチンは、現在ではすでに世界の約120か国で導入されています。

日本でも2008年からワクチンの使用が認めら、2011年1月より公費負担となり、2013年4月1日より定期接種となっています。
結果、10の道と県でヒブ菌による髄膜炎を含めた重症感染症の患者が発生しているかモニターされていますが、2014年以降1例も報告されていません。

接種時期についてですが、ヒブ菌の重症感染症は、その90%が5歳未満の乳幼児に起こり、その中でも主に2歳未満のお子さんに起こります。
これは、5歳未満の乳幼児は免疫が未熟で、インフルエンザ菌に対する抗体産生が遅れるため、と考えられています。
逆に5歳以上になると免疫が成立し、重症感染症は起こりにくくなります。
そのため予防接種をするのであれば、できるだけ赤ちゃんのうちに、生後2~7か月頃より始めるのが、より意味があると考えられます。
接種回数は接種開始年齢により異なります。

お子さんがヒブ菌重症感染症を発症して入院して、家族に2歳未満のきょうだいがおられる場合、その子にもヒブ菌による重症感染症が起こるリスクが増加します。
そのため、2歳未満の他のきょうだいがおられる場合は、ご両親も含めて、抗生剤の予防投薬が必要となります。
04.肺炎球菌
肺炎球菌は、鼻や喉といった気道の常在菌で、とくに5歳未満の乳幼児では、90%以上の児が一度は保菌すると言われています。
ウイルスによる気道感染(いわゆる「かぜ」)の後に、傷んだ粘膜から体に侵入してきます。
小児では、肺炎球菌による免疫がなかなかできにくいこと、また肺炎球菌の中で毒性のあるものは、体に侵入してきたとしても、白血球により食べられてもなかなか死なないといった性質があり、重症感染症を起こす原因として多い細菌です。
中耳炎肺炎、血液の中で細菌が増殖する菌血症の原因として最も多く、細菌性髄膜炎の原因としては、日本ではインフルエンザ菌b型(ヒブ)の次に多い菌です。とくに基礎疾患のあるお子さんでは重症化しやすいことがわかっています。

小児の侵襲的肺炎球菌感染症(肺炎、菌血症、髄膜炎など)は、自然免疫が獲得できないこと、また抗菌薬に対する耐性菌が増えてきており、治療に難渋することがあること、などから予防接種で予防することが重要です。
7価の小児用肺炎球菌ワクチン(プレベナー)は、約90種類以上ある肺炎球菌のうち、侵襲的感染症の原因として多い型を最も多いものの上から7番目までが対象として含まれており、これにより侵襲的肺炎球菌感染症の70~80%程度を防ぐことができると考えられています。
平成25年11月からは13価のワクチンに切り替わりました。
ワクチンにより周囲の高齢者の肺炎球菌感染症による死者が減少するといった効果も認められています。

小児の重症肺炎球菌感染症は、とくに生後6か月以降、すなわちお母さんからの免疫がなくなり、かぜをひき易くなってきてから急に増えてきます。そのため、生後6か月までに免疫をつけておくことが重要です。
またすぐには免疫がつかないため、生後2か月になったら、ワクチン接種を開始し、生後6か月までに初回接種が終了しておくようにしましょう。
05.ジフテリア
四種混合ワクチンのうち、ジフテリア、破傷風、百日咳の三種の疾患は、菌が出す毒素が原因となって重い症状をきたし、生命の危険が高く、かつ発症してしまうとどれも治療に苦労するものばかりです。
こうした病気を防ぐ唯一の最も効果的な方法が予防接種です。

ジフテリアは、ジフテリア菌によっておこり、戦前は患者数・死亡者数ともに非常に多い病気でした。
その後予防接種の普及や衛生状態の改善その他の努力により、先進国では大きな流行はなくなっています。
日本でも、1945年(昭和20年)に8万6千人の患者が報告され死亡率は約10%でしたが、1988年~1997年(昭和63年~平成9年)の10年間では33例(死亡1例)と激減しています。
しかし、旧ソ連の崩壊などで社会が混乱した1990年から1996年にかけては、旧ソ連邦諸国で15万人以上の患者が発生し、1万人以上が死亡するなど、決してなくなった病気ではなく、油断すればすぐに流行しはじめる可能性のある病気です。

ジフテリア菌は皮膚・粘膜に付着して増殖し、その部位に炎症を起こし、その部位が壊死して固まっていきます。
のどの粘膜で増殖した場合、壊れて固まった粘膜-偽膜という灰褐色の革のように見える膜-を形成し広がっていきます(「ジフテリア」とはギリシア語で「なめし革」を意味する言葉が元になっています)。
この膜ははがれにくく無理にはがすと出血します。
これが気管の入口である喉頭というところまで広がると、窒息の危険があります。進行も早く数時間で広がることも多いのです。
このときには、「クループ」と呼ばれる特有の犬が吠えるような咳や、息を吸うときに「ヒュー」という音が聞こえたりします。
この場合は、気管内に管を入れ、人工呼吸器が必要となることもあります(ジフテリア以外のウイルスなどの感染症でも似たような症状をきたすことがあり、ジフテリアのクループと区別するため、以前は「仮性クループ」と呼ばれていました。これは軽症であることがほとんどです)。

ジフテリアの症状はこれだけではありません。ジフテリア菌で毒素を産生するものの場合、この毒素が血液中に入り心臓や神経が障害され、生命に関わる合併症が起こることがあります。のどのジフテリアでは、感染後多くは2~3週間後に、心臓の筋肉が障害されて心不全や不整脈を起こして突然死したり、神経が障害された場合は、のどの麻痺や、眼を動かす神経が麻痺したり、手足の筋力が低下したりします。
中毒症を発症した場合は、通常の抗生剤治療は無効であり、抗毒素血清で治療しなければなりません。
回復するのにも長期間かかります。

ジフテリアの症状を防ぐ唯一の方法は、ワクチンしかありません。
ワクチンの効果も一生は続かないため、乳幼児期の基礎免疫の後、小学校での追加免疫が必要となります。
06.破傷風
破傷風菌は、土、ホコリ、動物の腸内など、世界のどこでもいたるところにみられる菌で、乾燥や熱に強く長期間生存できる芽胞の形で存在しています。

破傷風を発症するのは、主に予防接種をしていない人です。
犠牲者が最も多い発展途上国では、新生児や出産後の母体の破傷風が多く、主に出産に伴って起こります。
世界では、1年間に50万人の赤ちゃんと1.5~3万人の母親が死亡しています。
予防接種の普及により、先進国では発症者は少ないですが、日本でも年間30~50例の患者が発生しており、死亡率も30%程度と高いです。
発症者のほとんどが35歳以上の成人で、小児ではまれですが、これは予防接種の効果と考えられます

新生児以外では、刺し傷や、火傷、虫刺され、ピアスその他からだの傷が元になって破傷風を発症することがあります。
破傷風の症状は破傷風が出す毒素により起こります。
毒素はテタノスパスミンといい、毒としてはボツリヌス毒素に次いで2番目に強い毒で、体重10 kgのお子さんでは、致死量はわずか0.1 μg(1 μgは、1 mgの千分の1です)という非常に強力な毒素です。

人間の筋肉は、神経の指令により縮んだり伸びたりして、微妙な調節を受けながら、体を動かしているのですが、破傷風毒素は神経の働きを抑える神経(運動抑制ニューロン)を働かなくさせてしまうため、体の筋肉が強く縮んだままとなります。
顔の筋肉が強く縮んだままだと、口が硬く閉じたまま開けられない(開口障害)、顔の筋肉がひきつってまるで笑っているように見える(痙笑)などの症状がみられます。
全身の筋肉に同じことが起こると、体がどんどん弓なりに後ろに反っていき、頭とかかとがくっつくくらいになります(後弓反張)。さらにつらいのは、脳や感覚神経は障害されないので、意識も正常で、痛みも正常に感じることができるため、強い痛みがまともに続くことになる、ということです。

破傷風は予防接種でしか予防できない病気ですので、必ず予防接種しておくことが大切です。
ジフテリアと同様、予防接種の効果は、一生は続かないため、乳幼児期の初回投与の後、11歳ころに追加免疫が必要となります。

予防接種をしていない場合、けがをした時は、小さい傷でもすぐに予防接種を受けることが大切ですし(予防接種をしていないために、木の枝でのほんのちょっとした足のひっかき傷から、破傷風を発症したお子さんがいます)、とくに犬その他の動物に咬まれた場合は必ずすぐに予防接種を受けなければなりません。
また大きな怪我(開放骨折など)の場合は、予防接種に加えて、破傷風抗毒素抗体という血液製剤を投与しなければならないことがあります。
また他の病気と異なり、破傷風は1回かかっても免疫は獲得されないため、やはり予防接種が必要となります。

全身型の破傷風を発症してしまった場合、外傷部位の外科治療や抗生剤治療や抗毒素治療でそれ以上病気が進行しないようにしますが、すでに神経内に取り込まれた毒素は中和できないため、筋強直発作が治まるまでの数週間は、集中治療室での全身管理が必要となります。
07.百日咳
主に百日咳菌によって起こります(時にパラ百日咳菌)。自然にかかっても、予防接種をしても、どちらも免疫は一生続かないため、一生の間に何回でもかかる可能性があります。
日本でも周期的に流行がみられており、決してめずらしい病気ではありません(当院でも令和元年の3~7月の間に40名の患者が確定診断されるという流行を経験しました)。
思春期年齢の子どもや成人で、7日以上咳をしている人のおよそ3人~7人に1人(13~32%)が詳しく調べると百日咳であったとの報告が多くあり、実際思った以上に多いかもしれません。

百日咳菌は、咳をしている人から飛び散った唾液から伝染します。
家庭内などで密接に接触している環境では、免疫のない人はほぼ100%伝染するといわれており、免疫がある人でもおよそ80%の人が、症状は出ないものの百日咳に感染しているといわれています。
子どもに百日咳が見つかった場合は、多くが家族からうつっており、よく調べると家族内で咳をしている人が見つかることも多いです。

百日咳菌は、呼吸線毛上皮細胞という細胞にのみ接着し、そこで百日咳毒素をはじめ、数多くの生理活性物質を産生します。
線毛細胞が破壊され、菌が除菌されるのを防ぎ、体内に毒素が吸収されるようになります。
百日咳毒素を中心として、これらの物質により百日咳症状が出ると考えられていますが、どのようにこうした症状が出るのかについては、まだ詳しく分かっていません。

百日咳の症状は、年齢や予防接種をどのくらい受けているか、かかったことがあるか、などによっても大きく変わってきます。
ある程度免疫のある場合は、咳が長く続くだけということが多いです(そのためなかなか診断がつかない、ということもありえます)。

全く予防接種や治療を行わない場合の典型的な症状は、3~12日の潜伏期のあと、カタル期といって1~2週間くらい鼻かぜのような症状が続きます。
この時期の症状は、微熱、鼻水、くしゃみ、眼がうるんでいるなど、ふつうのかぜの症状とまったく同じで、見分けはつきません。
その後かぜ症状が治まってくると、発作期という百日咳に特徴的な症状が出始めます。
コンコンとした乾いた咳から始まり、徐々に自分で止めることのできない激しい咳発作へと変わっていきます。
元気にしている子どもが、急に不安そうな顔で親にしがみつくようになり、それから休みのない機関銃のような激しい咳き込みが出ます。
顔は紫色となり、眼が突出し、アゴや胸、舌を精一杯前に突き出します。
息ができないくらい咳発作は強いので、発作が治まると、とにかく息をしなければと、一生懸命息をヒューと吸い込みます。
これを''Whooping''(ウーピング)といい、百日咳に特徴的な症状です。咳き込んだ後に嘔吐することも多いです。
この発作は、日や週が経つにつれてますます重くなり、発作の回数や重さがひどくなっていき、もっともひどいときは1時間に1回以上こうした発作が起こります。
この発作期は6~10週間続き、本人は疲れ果ててしまいます。
その後回復期になり、発作の回数や重さ、持続時間も減り、2週間以上かけてゆっくりと回復していきます。
全部で3か月近くかかるので、まさに「百日咳」です。

百日咳がなぜ予防接種を受けなければいけない病気なのかというと、1歳未満とくに生後6か月未満の赤ちゃんがかかると重症になり、生命にかかわる合併症を起こす可能性があるからです。
とくに2か月未満の赤ちゃんの死亡率は約1 %と高いです。
赤ちゃんの場合は、百日咳の特徴的な症状がみられないこともあり、急に呼吸が止まったりする(無呼吸)のが唯一の症状であったりします。
無呼吸による低酸素血症や、強い咳き込みが続くことによる脳出血が原因となって痙攣や脳症を発症したり、別の細菌がさらに感染して重症の肺炎を起こしたりして、これらが死因となります。
そのため赤ちゃんのうちに予防接種しておくことが重要ですし、赤ちゃんの予防接種が無事完了するまで赤ちゃんに百日咳をうつさないようにするためにも、地域での流行を防ぐために全員がワクチンを接種しておくべきです。
当院でも開業してから今までで、0か月児と2か月児の百日咳を2例経験しており、1人は集中治療室で管理されています。
08.ポリオ(急性灰白髄炎、小児まひ)
ポリオ(急性灰白髄炎、小児麻痺ともいいます)は、ポリオウイルスにより起こる疾患です。

日本では1960年代前半まで流行を繰り返しており、特に1960年には年間5000名を超える大流行となったため、1961年に、当時国交のなかったソ連から緊急にポリオの弱毒生ワクチンを輸入して緊急接種したところ、翌年には患者が急速に減少し、1980年を最後に野生株によるポリオは出ていません。
しかし、インドやパキスタンなどのアジアの一部の国ではいまだに野生株によるポリオ患者が発生しており、これらの国々からの波及により、それまでポリオが出ていなかった国でも再び患者が発生しているなど、国際交流が盛んになっている世界情勢では、日本でもいつ患者が発生してもおかしくない状況です。

ポリオウイルスは、感染者の便中に含まれるウイルスを経口摂取することにより感染します。
ヒトののどや小腸で増殖し、便中に長期間(最長で35日間程度)排泄され、再び他のヒトへと伝染していきます。
ほとんどの人は症状がでません。
10~20人に1人が発熱、頭痛、嘔吐などの風邪症状が認められます。
1000人~2000人に1人くらいの確率で、ウイルスが血液を介し脳・脊髄へと感染し、運動神経を障害して、麻痺を起します。
麻痺は永久に残ることもあります。
ときには呼吸をするための神経が麻痺してしまうと、呼吸ができなくなりそれが原因となり死亡することもあります。

ポリオは、いったん感染者が出ると、長期間にわたり便中に排泄され、症状が出ないことも多いため、本人も知らないうちに周囲へと爆発的に広がります。
また、発症してしまうと有効な治療法がないので、全員に予防接種すべきですし、撲滅すべき疾患です。

ポリオの弱毒生ワクチンは、極めて有効なのですが、まれに450万人~500万人に1人くらいの確率(人によってももっと多いと推計していることもあります)で、ワクチン株により、接種した本人や周囲の人に麻痺が起こることがあります(ワクチン関連麻痺)。
まったく野生株により感染症が発生していない状況では、ワクチン株による麻痺が問題となり、こうした麻痺が理論上起こらない不活化ワクチンが日本でも導入されることとなりました。
平成24年9月1日から単独の不活化ポリオワクチンが開始され、平成24年11月1日より三種混合ワクチンに不活化ポリオワクチンが加わった四種混合ワクチンが始まりました。
一方、不活化ワクチンはワクチン関連麻痺は起こらないものの、効果が長続きせず、追加接種をした方がよいと考えられていますが、これは任意接種となります。
09.結核
結核は、大変古い病気ですでに4000年以上前から世界中で見られています。
日本では、1950年では死亡順位の第一位を占める国民病でしたが、その後衛生環境の改善や、診断・治療の進歩により減少し続けています。
ただ、日本を含めたアジア、アフリカ、中東などは結核が多い地域で、日本も他のアジア諸国にくらべ低いものの、欧米に比べると人口10万人当たりの罹患率は2019年時点で11.5人と高く、低蔓延国(罹患率が10人未満)~中蔓延国(20人以上~100人以下)の間くらいで、結核はまだまだ注意が必要な病気です。
また、京都府は結核患者が多い都道府県の上位5位以内に入っています。
京都府の新規登録患者は、2019年は年間354人であり、1日に1人くらいのペースで新しい患者さんが見つかっています。
そのうち、他人の感染させる可能性のある排菌患者(咳をした痰の中に結核菌が見られる)は130人でした。

感染経路ですが、排菌患者さんが咳をしたときに発生した結核菌を含むエアロゾルによる空気感染が多いですが、ときに接触感染や排菌した菌が付着した汚染物を介した接触感染も起こりえます。

結核菌の侵入経路は、98%以上が肺からになります。
肺から侵入した結核菌は、肺の空間内や免疫細胞であるマクロファージ内で増殖します(マクロファージとは、「大食い細胞」の意味で、体に侵入した細菌をそのまま食べてしまう働きがあります)。
通常マクロファージに食べられた菌は細胞内で消化され殺菌されてしまいますが、結核菌の細胞壁にはこの殺菌作用に抵抗できる成分が含まれており、死なずに増えることができるのです。
それでも、さらにマクロファージより上位の免疫系の司令塔であるリンパ球の働きにより、結核菌はマクロファージその他の免疫細胞が固まってできた肉芽組織に取り囲まれたまま何年にもわたって閉じ込められてしまいます(初期変化群)。
多くはそのまま治癒しますが、1割くらいの人では、結核菌は肉芽組織内でも生き続け、何年も経ってから結核菌が肉芽組織から出てきて肺の中で増殖し拡がっていきます(肺結核)。
一方、免疫の弱い乳幼児の場合、結核菌が侵入すると、免疫がうまく働かず、そのまま体内で増殖し、血液やリンパ液にのって全身に広がります(粟粒結核)。
その後、脳、腎、消化管、骨、関節、皮膚など様々な場所に感染を起こします。

肺結核では、とくに初期は胸部X線写真の病変の強さに比べ、表にでてくる症状は驚くほど軽いこともあり、なかなか診断がつかないことがあります。
小児の粟粒結核では、発熱以外に目立つ症状がなく、かなり意識して疑わないと、なかなか診断がつきません。
子どもの結核のほぼ全例が親からの感染であるため、親が結核患者であることが唯一の診断の手がかりとなることもあります。

治療は、抗結核薬を複数(4種類くらい)、長期間(6~9か月)に渡って内服しなければなりません。
中途半端に止めてしまうと、薬剤耐性菌が発生し、治療が困難となってしまうこともあります。

予防はBCGワクチンです(いわゆる「はんこ注射」ですね)。
肺結核を予防する効果は50%くらいと高くはありませんが、結核性髄膜炎などの重症結核の予防効果は80%あるといわれており、発症を予防するというより、重症化を予防することが目的となります。
欧米などで結核の発生者数が少ない所では、発症予防できるわけではなく、診断のために行うツベルクリン反応の判定が困難になってしまう(本当の結核なのかBCGの影響なのか判断できなくなる)、などの理由でBCGを中止しているところもあります。
日本は、他のアジア諸国よりは少ないとはいえ結核患者が多く、結核患者が多いアジア諸国からの人の交流も盛んなため、まだまだBCGは必要と考えられています。
京都市では、平成29年7月から一般診療所での個別接種が始まり、令和元年7月には保健センターでの集団接種が終了しています。
10.麻疹(はしか)
麻疹(はしか)は、麻疹ウイルスによっておこり、かつてはほぼ全てのお子さんがかかり、症状も重い病気でした。
現在根絶されている天然痘が、あばたが残ってしまう「見目さだめ」といわれたのに対し、麻疹は「命さだめ」といわれるくらい、麻疹を乗り越えることができるかどうかが、子どもが長生きできるかどうかの大きな関門のひとつでした。

予防接種により麻疹にかかる人は減っていますが、日本では、いまだに患者が見られています。
また最近では、予防接種をしているにも関わらず、大人になってから麻疹にかかる人がでてくるようになりました。
これは、今までは予防接種を1回しておくと、流行のときに知らない間に麻疹ウイルスと接触することになり、このときに免疫が強化されて、維持されるため(ブースター効果)、麻疹にかかることがなかったのですが、流行が少なくなったために麻疹ウイルスと接触することがなくなり、免疫が維持できなくなってしまったからです。
そのため、現在は2回接種法に変わっています。
このことからもわかるように、麻疹は過去の疾患ではありません。

麻疹ウイルスは感染力が強く、麻疹にかかっていなかったり、予防接種をしていない人(感受性者)が麻疹患者と接触すると、90%が発症するといわれています。
空気感染するため、麻疹にかかっている人が部屋を出ても、1時間くらいはウイルスがその部屋の中の空気中に漂っています。
麻疹ウイルスは鼻やのど、眼の粘膜から感染し、増殖し、リンパや血液を通して全身に拡大していきます。
全身の細胞に感染し、細胞を壊したり、巨細胞と呼ばれる塊に変えていきながら増えていきます。

麻疹の通常の経過は、8~12日の潜伏期のあと、カタル期といって、発熱、鼻水、咳、結膜炎といった風邪症状が始まります。
経過とともに症状は悪くなっていき、「この子は大丈夫かな?」と思うくらい発熱、咳がひどく、眼がしょぼしょぼとして目やにが多くなり、ぐったりしていきます。
この時期は、口の中のほっぺたの粘膜に、コプリック斑と呼ばれる中心が灰色をした、周囲が赤いブツブツが出現し、診断の手がかりとなります。
カタル期が4~5日続いた後、体中に発疹が出現し発疹期に入ります。
発疹は頭の生え際や耳の後ろより始まり、全身へ拡がります。
発疹は小さいブツブツが一つに融合する傾向があり、全体的に赤黒く見えます。
発疹が出現して1~2日すると、発熱や咳が治まってきて、体も楽になってきます。
発疹は7日くらいかけて治まっていきます。
皮膚の皮がぽろぽろとめくれたり、色素沈着といって、発疹のあとが残ることもあります。
また麻疹は栄養状態が悪いとき、とくにビタミンAが欠乏している状態では、症状が重くなることが知られています。
通常の経過でも発熱が1週間以上続き、重度の気管支炎になります。

麻疹はこれだけではおさまらず、生命の危険をおよぼす肺炎脳炎といった合併症を起こすことがあります。
肺炎は麻疹ウイルスそのものによる肺炎や、体の抵抗力が低下することよる細菌性の肺炎などがあります。
米国の報告では、麻疹患者のおよそ20人に1人(5.9%)が肺炎をきたし、脳炎はおよそ1000人に1人の割合(0.1%)でかかります。
こうした合併症は、こどもの時期よりもおとなになってからかかった方がさらに多くなることがわかっています。
脳炎になると6人に1人(15%)が死亡し、5人に1~2人(20~40%)が重い後遺障害に苦しみます。
他に非常にまれですが、麻疹に感染して7~10年経ってから亜急性硬化性全脳炎(SSPE)と呼ばれる脳炎が起こることがあります。
麻疹の死亡率は0.1~0.3 %と高く、1000人のうち1~3人が死亡する計算です。

麻疹は小児科医が最も予防してほしいと考えている病気の一つです。
麻疹によって「命取り」とならないよう、しっかりと予防接種をしておくことが極めて大切です。
11.風疹(三日はしか)
風疹(三日はしか)は、風疹ウイルスにより起こる感染症で、予防接種が開始されてからは、あまり見ることがなくなってきています。
主に子どもがかかり症状は軽いのですが、大人になってかかると症状が強く出ます。

風疹で最も重要なのは、妊娠初期にお母さんに感染してしまうと、先天性風疹症候群といって、おなかの赤ちゃんに重度の障害で起こる可能性があることです。
予防接種が行われる前の米国では、1964年から1965年にかけて風疹の大流行があり、2万人の先天性風疹症候群患者が発生し、うち1万1千人が自然流産や人工妊娠中絶となり、2100人が新生児期に死亡しているという記録があります。
我が国でも平成25年(2013年)をピークに成人の風疹の流行があり、それに併せて、先天性風疹症候群が多数発生しています。

風疹ウイルスは鼻やのどの粘膜に感染後、リンパ管を通してリンパ節に拡がりそこで増殖し、その後血液から全身に広がります。
潜伏期は14~21日間で、微熱、のどの痛み、眼の充血、頭痛、全身のだるさ、食欲の低下などの前駆症状とともに、発疹が出現します。
発疹は粟粒くらいの大きさの小さいピンク色のもやもやした発疹で、顔や首から全身に拡がっていきます。
体や手足の発疹ははっきりとした形に見えることが多いです。
発疹は3日間ほどで消えていきます。
発疹出現前後7日間はウイルスを排泄しているため、他の人に伝染する可能性があります。

風疹の症状は、ふつう軽く、生命の危険はありません。
合併症としては、血小板減少症、関節炎、脳炎、ギラン・バレー症候群、末梢神経炎、心筋炎などがあります。
血小板減少症は、3000人に1人くらいで見られ、皮膚の点状出血や、鼻血、下血、血尿などの症状をきたすことがあります。
関節炎は、成人、とくに女性に多く、発疹出現後1週間くらいでみられ、手の関節などに起こりやすいです。
数週間で治っていきます。
脳炎が最も重度の合併症で、頭痛、痙攣、意識障害、麻痺、運動失調症状などの症状があり、治る場合は完全に回復することが多いのですが、死亡したり、重度の後遺症が残ることもあります。

妊娠初期のお母さんが風疹にかかると胎児に風疹ウイルスが感染し、先天性風疹症候群をきたすことがあります。
妊娠10週までにかかると90%以上の赤ちゃんが影響を受け、その後週数ごとに影響をうける可能性は減っていき、17週以降では大丈夫となります。
難聴が最も多く、次に多いのが白内障や先天性心疾患などです。脳が障害され発達への影響が見られることもあります。

風疹は、25~40%の人はかかっても症状が出なかったり、症状が出ても他の病気と紛らわしかったりすることもあります。
風疹にかかったかどうかは、採血検査で風疹抗体価を調べることによりわかります。

風疹は1回かかると、再感染しても、知らないうちに治っていたり、症状がでても軽いのですが、妊娠初期のお母さんの場合は、お母さんが大丈夫でも、おなかの赤ちゃんに影響が出ることがあります。
平成25年(2013年)度の風疹の流行では、風疹ワクチンを接種していたお母さんからも先天性風疹症候群を発症した赤ちゃんがみられております。
自分を守るだけでは不十分で、地域での流行を防ぐことがとても大切です。
そのためには、地域の風疹の予防接種率を90%以上に保つことが必要です。
これから生まれてくる赤ちゃんたちの未来を守るためにも、ぜひ予防接種を受けておきましょう。
12.みずぼうそう(水痘)
水痘ウイルスは、ヘルペスウイルスの仲間です。
初めて感染を起こした場合、みずぼうそう(水痘)の症状で発症しますが、免疫が成立すると背骨の中にある脊髄の知覚神経節という部分の神経細胞内にもぐりこんで、一生潜伏感染します。
体調不良などにより免疫力が低下したときに体内で押さえ込まれていたウイルスが再活性化されて帯状疱疹として再発することがあります。
病気の形は変わりますが同じウイルスが原因です。
1回かかると新たな水痘ウイルスによる感染は起こらなくなります。

水痘はほとんどが15歳未満でかかります。
1歳から9歳までにかかった場合は、軽く済みますが、1歳未満の児(お母さんが水痘にかかっていない場合)、思春期以降、成人、免疫機能が低下している場合(妊婦、高用量の長期全身ステロイド投与を受けている場合、抗がん剤投与を受けている人、HIV感染症など)は、重症となることがあります。
重症の細菌二次感染や、重度の肝障害、肺炎、脳炎、重度の出血、などをきたすことがあり、死亡することもあります。
水痘にかかっていないお母さんが妊娠初期に水痘にかかった場合、まれですが(2%以下)お腹の赤ちゃんの手足や脳に影響が出ることもあります(先天性水痘症候群)。
全体の死亡率は10万人当たり2~3人と多くはありません。
1~9歳の死亡率は10万人に1人未満と少ないですが、1歳未満の乳児は4倍、成人では25倍と高くなります(未治療の場合)。

水痘の経過ですが、水痘ウイルスと接触しておよそ2週間後に発症します。
学童期以降や成人では、38℃程度の発熱、全身がだるい、食欲がない、頭痛、軽い腹痛などの症状が先に見られることもあります。
頭・顔・体を中心に、かゆみの伴う赤い発疹が出現しはじめ、発疹は徐々に透明な液体が貯留した水疱となり、中心部が凹んで液が濁ってきて、最後にかさぶたになります。
それと同時に新たな発疹が体から手足へと拡がっていきます。
新しい発疹と、かさぶたになった古い発疹が混ざっているのが、水痘の発疹の特徴です。
発疹は皮膚のみならず、のどや性器の粘膜に見られることも多いです。
家族から感染した場合や、年長児では、発疹の数が多くなり出現期間も長くなります。
アトピー性皮膚炎などの湿疹や火傷などの皮膚病があったりすると症状が強くなります。
発疹の経過は5~7日程度です。
発疹はほとんどが痕を残さずに治りますが、細菌感染などが重なると痕が残ることもあります(高校生の女の子で、顔じゅうに痕が残って泣きじゃくっていたという、かわいそうなこともありました)。
水痘ウイルスの再活性化による帯状疱疹は、小児では少なく、症状も成人に比べて軽いです。

とくに健康に大きな問題のないお子さんが水痘にかかった場合、抗ウイルス薬(アシクロビルなど)を投与すると、経過を軽くしたり、重症化を防ぐことができます。
ただ、抗ウイルス薬は高価で副作用の可能性もあるため、全ての人に一律に投与するわけではなく、1歳未満のお子さんでアトピー性皮膚炎や喘息などの病気のある場合、13歳以上のお子さん、ステロイド投与を受けている場合、川崎病などにかかった後でアスピリンを内服している場合(みずぼうそうやインフルエンザのときにアスピリンを使うと、ライ症候群という脳症を起こすことがあることが知られています)、家族からうつった場合(多量のウイルスを浴びているので症状が強くなりやすいです)、などの重症になるリスクが高くなる人では、抗ウイルス薬を使用すべきとされています。
ただし、当院ではいろいろの状況を勘案し、全員に抗ウイルス薬を投与しています。
免疫力が低下しているなど、重症化の危険性が高いお子さんでは、免疫グロブリンによる予防など、かなり注意した管理が必要となります。

発疹出現の1~2日前から発疹が全てかさぶたになるまでが、他の人への伝染期間となります。
水痘患者の唾液などの分泌物や、水疱内の液にウイルスが含まれ、空気感染や直接の接触で伝染します。
そのため、この期間は家でじっとしていなければならず、学校に行くことも禁止されています。
買い物などの外出も控えてください。

水痘は子どもの頃にかかることが多く、そのほとんどが軽症です。
しかし、まれに重度の合併症をきたすことがある、伝染性が強く接触するとかなりの高率で発症する、子どもの頃にかからなかった場合大人になってからかかると重症化する(妊婦さんでは妊娠末期にかかると6人に1人の確率で死亡します)、治るまでに1週間程度かかりその間外出が禁止されご両親が共働きなどの場合は仕事を休まなければならなくなる、などの問題が生じます。
水痘の患者さんと接触した場合、3日以内にワクチンを接種すれば、ワクチンの効果の方が先に出現するため、水痘の発症が予防できたり、軽症化させたりすることができます。
水痘の予防接種は任意接種でしたが、平成26年10月1日より定期接種となっています。

水痘の予防接種を行うと、およそ80%が水痘の予防ができ(報告により異なりますが、予防効果は70~100%の間です)、またかかっても軽く済むようになり、重症の合併症は95%以上の確率で防ぐことができます。
帯状疱疹の発症率も自然にかかった場合よりも少なくなるといわれています。
米国では全員に接種することにより地域の流行がなくなり、白血病などの重症になる危険が高いお子さんへ伝染することが減少した、という効果も認められています。
日本のような流行国では、1回の接種では、軽症ではあるものの再度罹患することも多く、日本小児科学会では、1歳の時に6か月以上の間隔をあけて2回接種した方がよいと推奨されています(1歳6か月までに1回接種し、1歳6か月以降で、かつ初回接種から3か月以上開いていれば接種が可能です。
ただ、1歳のお誕生日に接種した児は、次の接種が1歳6か月以降となりますので、だいたい6か月開ければよいと思います)。
13.おたふくかぜ(流行性耳下腺炎、ムンプス)
流行性耳下腺炎は、ムンプスウイルスが原因で起こります。
主に5~9歳のお子さんにみられ、唾液により伝染します。
感染すると、のどや、耳の下にある耳下腺で増殖し、リンパ管を経由してリンパ節から血液を経て全身に拡がり、髄膜炎や精巣炎などの合併症を起こしたりします。
ムンプスウイルスの感染症は、全ての人が発症するわけではなく、知らない間にかかっていることもあります。

流行性耳下腺炎の患者さんと接触後、ふつう16~18日くらいの潜伏期間の後、最初は片方の耳下腺が腫れて痛くなってきます。
その後もう片方の耳下腺も腫れるようになります。
およそ70%の人が両方とも腫れます。同じ期間に38~40 ℃程度の発熱が見られることも多いです。
腫れる1~2日前より、発熱、頭痛、嘔吐、痛みなどの症状が先に出ることもあります。
下あごの形がわからなくなるくらい腫れてくることもあります。
ひどいと数時間で別人のように顔が変わってしまいます。
本当におたふくのようです。
3日目くらいが最もひどく、7日くらいかけてよくなっていきます。

耳下腺が腫れる病気はほかにもあり、ときに紛らわしいこともあります。
その場合は、採血検査でムンプスウイルスに対する抗体価の検査を行うのが有効です。
採血はおたふくかぜの症状があるときと、治ってから2週間目くらいのときの2回の検査が必要になります。

のどや耳下腺で増殖したムンプスウイルスは、その後血液から全身に拡がります。
脳に入りやすく、10~30%の人に無菌性髄膜炎を合併します。
よくあるのは、おたふくかぜとわかってから5日目くらい、そろそろ治りかけたかな、と思う頃に再び発熱と強い頭痛、嘔吐の症状で発症します。
ときに脳炎になることもあります。後遺症なく治ることがほとんどですが、数日の入院が必要になります。
髄膜炎かどうかは、髄液検査で診断します。
難聴は2~20万人に1人くらいといわれていましたが、日本のような流行国では千人に1人くらいと多い、とする報告もあります。
平成29年度(2017年)の日本耳鼻咽喉科学会による全国調査では、2015年~2016年の2年間で、おたふくかぜ罹患後に348名の方が難聴となり、そのうち80%は高度難聴(大きなピアノの音が聞こえない)で、うち16名は両側とも難聴となっていたことが明らかとなり、難聴患者は非常に多いことが判明いたしました。
また、お子さんのみならず、その親御さんもおたふくかぜによる難聴患者がみられています。
残念ながら、難聴はかかってしまうと治すことは難しいです。

 2015-2016年にかけて発症したムンプス難聴の大規模全国調査(日本耳鼻咽喉科学会)

思春期以降のお子さんや成人の男性がかかった場合、30~40%の人は精巣炎を合併します。
うち両方とも精巣炎になるのは、1/3以下の人です。
精巣炎になると精巣が萎縮をしてしまうこともあります。
ただ両方とも精巣炎になっても不妊になることは稀といわれています。
他には膵炎をきたすこともあり、この場合、発熱、胃のあたりの痛み、嘔吐などの症状があります。
重症になることはあまりありません。
なぜそうなるのか詳しくはわかっていないのですが、膵炎の後に1型糖尿病を発症するリスクが高くなることが指摘されています。
他にまれですが心筋炎、関節炎、腎炎、甲状腺炎などを起こすことがあります。

耳下腺炎の治療は、とくに有効な薬はないため、痛み止めなどの対症療法が主体となります。
すっぱいものを食べると痛みが強くなるため、避けた方がよいでしょう。
発症後5日間(以前は、耳下腺が腫れている間)は、ウイルスが排泄されているので、他の人にうつらないよう外出は控えてください。
学校などに行くことも禁止されています。

ムンプスウイルスは耳下腺が腫れる1~2日前より患者から排泄されるために、症状が出てしまったときには、すでに他の人にうつってしまっている可能性もあるため、予防することは難しいです。
また日本では難聴は意外に多いとする報告があることや、髄膜炎などの合併症も多いため、任意接種ですができれば予防接種をしておいた方がよいと思われます。
日本小児科学会の勧告では、1歳過ぎて1回接種後、小学校就学前の1年間に再度接種することが推奨されていますが、免疫が獲得される率は1回目で80%、2回目で98%であり、流行期にぶつかった場合は、小学校就学前まで待たず、2回目の接種を早めにやっておくことをお勧めします(医学生は4週間間隔で2回接種しているところもあります)。
14.日本脳炎
日本脳炎ウイルスは、日本を含め、東アジア・南アジアに広く分布しています。
主にブタ・ウマなどの大型の家畜で増え、これらの動物を吸血して日本脳炎ウイルスに感染したコガタアカイエカなどの蚊が、ヒトを吸血することにより伝染します。ヒトからヒトへの感染はありません。

日本・韓国・台湾などでは、予防接種によりほとんど日本脳炎の患者がみられなくなっています。
日本での発生状況は毎年10人未満で、そのほとんどが中高年の方ですが、2006年には熊本県で3歳のお子さんが日本脳炎にかかっています。
一方で、ブタが日本脳炎にかかっているかを調査すると、九州・四国・近畿・関東地方などでは、7月中旬ころからブタの日本脳炎抗体価の陽性率が上昇しはじめ、夏の終わりまでには80%を超えるブタが日本脳炎にかかっていることがわかります。
日本脳炎ウイルスはブタなどの動物の中では毎年流行しており、確実にいることは確かです。

日本脳炎ウイルスに感染してもほとんどの人は症状が出ずに治ってしまいます。
症状が出る場合は、6~16日の潜伏期のあと、発熱、頭痛、嘔吐などの症状で発症し、その後痙攣、意識障害等の脳炎症状が出てきます。
脳炎を発症してしまうと、約1/3が死亡し、生存者の40%は重い後遺障害に苦しむことになります。

日本脳炎を防ぐために予防接種が行われてきました。
予防接種を受けた人の中で、急性散在性脳脊髄炎(ADEM、アデムと読みます)と呼ばれる副作用のうち、重い症状となる方が出ました。
因果関係は不明なのですが、より慎重に対応するということで、平成17年5月より、定期勧奨予防接種が差し控えとなっており、希望者以外には強く勧めないということになっていました。

科学的な因果関係は不明なものの、マウスの脳に日本脳炎ウイルスを接種して増殖させてつくられたワクチンから重症の副作用が発生していることから、培養細胞を用いて日本脳炎ウイルスを増殖させた乾燥細胞培養ワクチンが新たに開発されることとなりました。
ただワクチン接種後の急性散在性脳脊髄炎は、まったく別のワクチンや、他の国の乾燥細胞培養ワクチンでもみられています。
日本脳炎の新ワクチンは、平成21年2月23日付けで薬事法上の承認を受け、京都市では6月2日より第1期接種が定期予防接種として再開されました。
平成22年9月からは、第2期接種も再開されています。
また平成23年5月20日からは、旧ワクチンの勧奨接種の差し控えの影響で接種できなかった人を救済するため、接種対象年齢も拡大されました。

近年、日本脳炎予防接種の標準的接種年齢である3歳になるまでに日本脳炎を発症する患者が発生していることもあり、日本小児科学会では、流行地に滞在する人、患者が発生している・ブタの日本脳炎抗体価が高い地域に居住している人は、生後6か月からの接種を勧めています。

日本脳炎罹患リスクの高い者に対する生後6か月からの日本脳炎ワクチンの推奨について(日本小児科学会)
15.ヒトパピローマウイルス(子宮頸癌の原因ウイルス)
子宮頸がんは、近年、20~30歳台の女性で急速に増えてきているがんで、女性に特有ながんとしては、乳がんの次に多いがんです。

その原因として、ヒトパピローマウイルスが関与していることがわかりました。
このウイルスは、特殊なウイルスではなく、どの人でも一生で感染する可能性のあるものです。
そのほとんどは知らないうちに治っているのですが、一部の人では持続感染が起こり、前癌病変から子宮頸がんを発症します。
特に16型、18型が原因の60~70%を占めると言われています。

ヒトパピローマウイルスが持続感染してしまった場合、排除する方法なく、感染を防ぐためには、感染する前にワクチンで免疫をつけておくしかありません。
ワクチンには2価ワクチン(サーバリックス)、4価ワクチン(ガーダシル)の2種があります。
どちらも16型、18型は共通して含まれていますが、4価ワクチンには性病の一種である尖圭コンジロームを起こすタイプのウイルス抗原も含まれています。
どちらも臨床試験での子宮頸がんの予防効果は同じです。
2020年、長期にわたる予防効果についての初めての報告がスウェーデンからなされ、17歳未満で接種した場合、その後に発生してくる子宮頸がんの93%を予防できた、となっています。

接種回数はどちらも3回ですが、接種間隔が異なります。
2価ワクチンは、初回、1か月後、6か月後、4価ワクチンは、初回、2か月後、6か月後となります。
開始年齢は、2価ワクチンは10歳から、4価ワクチンは9歳から接種可能です。
現在、中学校1年生から高校1年生に属する年度の4月1日から翌3月31日までは公費負担の対象となっており、公費接種が可能です。
この期間中に接種し終わらなければならないので、高校1年生の方が接種される場合、遅くとも9月には初回の接種を開始しておかなければならないので注意してください。

このワクチンでは、接種後の副反応として、失神される方が時に見られるのですが、その原因は、予防接種に対する恐怖心からくる精神的なものと考えられています(迷走神経反射)。
数分安静にしていれば自然に治まりますので、あまり心配しないでください。
また転倒により怪我をする人の報告もありますので、接種後30分間は、保護者が付き添うか、院内でゆっくりと待機していただく方がよいかと思います。

子宮頸がんワクチンは、16型、18型の感染のみを予防するため、他のタイプのヒトパピローマウイルスに罹患する可能性はあり、100%の効果ではありません。
また子宮頸がんは検診が比較的簡単で、早期発見すれば、いのちが助かる、あるいは子どもが産めるように子宮を温存できる治療ができる可能性がそれだけ高くなります。
そのため子宮頸がんの好発年齢である20歳を超えたら、子宮頸がんの検診をかならず定期的に受けるようにしましょう。
16.インフルエンザ
インフルエンザウイルスは、A型、B型、C型の3種類に分かれ、このうち、A型とB型がヒトでの流行を起こします。
C型はかぜ症状を起こすことがありますが、流行は起こしません。
A型インフルエンザウイルスは、その表面上に主に2種類のタンパク質がスパイクのように突出しています。
1つはヘマグルチニン(HA)、もう1つはノイラミニダーゼ(NA)と呼ばれるタンパク質です。
HAタンパク質は15種、NAは9種あり、自然界では動物や鳥類に広く拡がっています。
このHAタンパクとNAタンパクの組み合わせにより、インフルエンザウイルスの種類が決まります。

現在、ヒトに病原性を持つものは、Aソ連型(H1N1)、A香港型(H3N2)の2つです。
この2つのウイルスは毎年のように突然変異を繰り返して抗原性が変化するため、同じタイプのウイルスに何回も感染する可能性があります。
数年前に流行した新型のブタインフルエンザ(現在は季節性と同じ扱いです)はAソ連型と同じH1N1の変異株です。

動物や鳥類の持っている新たなHA/NA型が、突然変異によりヒトに感染性を持つようになると、世界中で大流行するようになり、多くの人が犠牲になります。
有名なのは、1918年に流行したスペインかぜで、全世界で2000万人の人が亡くなられ、これは第二次世界大戦での死者に匹敵します。
最近では、アジアでH5N1、H9N2、H7N9が、オランダでH7N7型のいわゆる鳥インフルエンザウイルスが発生し、これに感染したニワトリはほとんど死んでしまいますし、ヒトに感染した場合も死亡率が高く、高病原性といわれています。
幸い、今のところこれらのウイルスはトリ-ヒト感染型のため、大きな流行は起こらずに済んでいますが、これらの新型ウイルスが、ヒト-ヒト感染型に変化すると、世界中で大流行となり、再び多くの犠牲者が出ると懸念されています。

インフルエンザウイルスは、空気感染により感染し、非常に感染力が強く、のどや気管支・肺の細胞内に侵入して急速に増殖しはじめ、細胞を壊しながら広がっていきます。 潜伏期は48~72時間といわれていますが、さらに短いこともあります。
インフルエンザの症状は、他の風邪を起こすウイルスによる症状と異なり、全身症状が強く出るのが特徴的です。
さきほどまで元気だった人が、突然39℃を超える発熱を起こし、悪寒があり、全身がひどく疲れ、体のあちこちが痛くなる、といった症状から始まります。
あまりにつらくて座っていられなかったり、夜眠れないこともあります(これは私の経験です)。
こうした全身症状の後から、鼻水、咳といった呼吸器症状が出てきます。
全身倦怠感は1~2日経つと少し楽になってきます。
発熱は2~5日続きます。咳は熱が下がった後もしばらく長びくことがあります。

インフルエンザは、心臓や肺に持病がある人や乳幼児、妊婦で重症化しやすいことがしられています。
また脳症、肺炎、心筋炎、筋炎といった合併症を起こすことがあります。
日本人に非常に多いインフルエンザ脳症は、欧米ではほとんど見られず、欧米の小児科の教科書にはインフルエンザの合併症として記載されていないほどです。
しかし日本では毎年200名程度のインフルエンザ脳症患者が発生しており、意識障害、痙攣などの症状により発症し、30 %が亡くなられ、25 %に後遺症が残ります。
一部の解熱剤がこうした脳症の症状を悪化させることが知られており、現在はお子さんには使われていません。
肺炎は、ウイルスが直接肺を障害することによるウイルス性肺炎と、ウイルスにより障害された肺に細菌が侵入することによる細菌性の肺炎があります。
1918年のスペイン風邪や、近年みられる鳥インフルエンザ、平成21年(2009年)に世界中で大流行した新型インフルエンザでは、重症のウイルス性肺炎をきたすことがあり、死亡者もみられました。
細菌性肺炎は、肺炎球菌や黄色ブドウ球菌などの細菌が原因となり、お年寄りでは生命にかかわることがあります。

インフルエンザを早く、確実に診断できる方法はなく、地域や自分の生活範囲(学校・職場)での流行状況、特徴的な症状(突然の高熱、強い全身倦怠感、体のあちこちが痛いなど)、ウイルス抗原迅速検査などにより判断します。
ウイルス抗原迅速検査は、発症後12時間以上経過しないと陽性となりにくいことが知られています。
流行のピーク時で、周囲に多くの患者がおられ、症状がインフルエンザを強く疑わせる場合は、迅速検査が陰性でも、あるいは迅速検査に頼らずともインフルエンザと考えてよいと思われます。
早めに来院して診断しておいてもらおうと考える方が時々おられますが、症状がないときに検査をしても何の意味もありません。

近年インフルエンザの治療薬が次々と開発され、実用化されています。
投与法も、内服薬、吸入薬、注射薬などそろってきました。
内服薬には、オセルタミビル(商品名タミフル)、バロキサビル(商品名ゾフルーザ)、吸入薬には、ザナミビル(商品名リレンザ)、ラニナビル(商品名イナビル)、注射薬にはペラミビル(商品名ラピアクタ)があります。
ゾフルーザについては、耐性ウイルスの出現を防ぐ観点から12歳未満の児への投与は積極的には推奨されていません。
抗インフルエンザ薬は、インフルエンザの症状の期間を短くしたり、肺炎などの重症化を防ぐ効果があります。
抗インフルエンザ薬の使用については、自然治癒する病気に使うべきかなど、色々な意見もあることは承知しておりますが、やはり使ってあげた方が患者さんは楽になるのではないかと思っています。

はっきりとした因果関係は証明されていないのですが、インフルエンザにかかり抗インフルエンザ薬(とくにタミフル)を使用した10歳代の人が、異常行動をきたす可能性が指摘されており、10歳台の人へのタミフル投与は原則禁止とされていました。しかし、2018年8月21日付の厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長通知により、使用制限は解除されています。
ただ、タミフル以外の抗インフルエンザ薬でも異常行動をきたす人の報告があり、またインフルエンザにかかった人はこうした異常行動をとることが多いので、10歳代の人がインフルエンザにかかった場合は、タミフルの内服にかかわらず、とくに最初の2日間は保護者がつねに傍にいるようにして、異常行動をしないか注意するようにした方がよいと思います。

予防接種は、インフルエンザの予防に加え、重症化を防ぐのに効果があることがわかっています。
ウイルスの抗原性は毎年変化する可能性があるため、毎年その冬に流行すると予測される株に基づいてワクチンを製造しています。
そのため、インフルエンザを予防しようと考える方は、毎年ワクチンを接種する必要があります。
予防接種の対象者はインフルエンザを予防したいと考える人は全てとなりますが、とくに心臓や肺などに大きな持病がある人、乳幼児(生後6か月以上で可能、ただし1歳までは免疫の獲得があまりよくないことがわかっており、希望される方のみです)、65歳以上の高齢者、妊婦は、インフルエンザにかかると重症化するリスクがあるため、予防接種が勧められます。
またこうした人の家族や医療従事者、幼稚園や保育園の職員なども感染源となるため、予防接種が勧められます。
ワクチンによる免疫が成立するまで1~2か月程度かかるため、流行期に入る前の10~11月頃までに接種します。
小児では、1回接種では免疫を獲得する確率が低いことがわかっており、2回接種する必要があります。
ワクチンはニワトリの卵から製造されるため、強い卵アレルギーがある人は接種できないことがあります。